布石の基本 — 大場、急場、ヒラキの幅
序盤の30手は、どこに打ってもいいように見えます。だからこそ、かえって難しいのです。定石が隅の中で繰り広げられる局地戦だとすれば、布石は盤全体をどう分けるかを決めることです。
布石とは何を決めることか
序盤に置く石は、その場で地を作るわけではありません。後で地になる場所を予約しているだけです。ですから序盤の一手が何目かを数えても意味はなく、そのかわりに「この石が盤全体でどんな働きをするか」を見る必要があります。
布石で判断すべきことは、結局三つです。
- どこがいちばん広いか — まだ誰の影響力も及んでいない空いた場所
- どこがいちばん急ぐか — 放っておくと自分の石が攻められたり、相手が大きく固まったりする場所
- 自分の石どうしが助け合っているか — バラバラだとそれぞれが弱くなります
定石入門では「隅 → 辺 → 中央」の順序を話しました。その順序を知ったうえでの次の段階が、この記事です。
大場と急場
囲碁の格言の中でいちばんよく引用されるのが「大場より急場」です。ところが初心者にとっては、この二つを区別すること自体が難しいものです。
大場
打てば地が大きく増える場所です。たいていは誰も手をつけていない広い辺です。すでに落ち着いた場所に一手足すより、がら空きの辺に一手置くほうがずっと大きいのです。
序盤にどこが大きいかわからないときは、ひとつ基準があります。両側が開いている辺がいちばん大きいということです。片側がすでに相手の石でふさがれていれば、その分だけ価値が下がります。
急場
打たないと損が出る場所です。大きさとは別の問題です。
- 自分の石が根拠を失って追われることになる場所
- 相手の弱い石を攻められる場所
- 二つの勢力がぶつかる境界 — 先に打った側が主導権を握ります
見分けるコツ。「自分がここに打たなければ、相手がここに打つだろうか?」と問いかけてみてください。相手も打ちたい場所なら大場です。「自分がここに打たなければ、自分の石が危なくなるか?」の答えがイエスなら急場です。急場があるなら、どんなに大きな大場があっても急場が先です。
ヒラキの幅 — 何路ヒラくか
辺に石を置くとき、既存の自分の石から何路離すかはいつも悩むところです。これにはかなり明確な基準があります。
石ひとつなら二間、石二つなら三間。壁になってくれる自分の石の数より一路多くヒラくのが基本です(「二立三間」という格言もあります)。この幅なら、相手が間に打ち込んできても取られずに生きられます。
もっと広くヒラいたらどうなるでしょう。効率は良くなりますが、間を切られる危険が生まれます。相手が真ん中に入って両側を分断すれば、弱い石が二つに増えます。狭くヒラけば安全ですが、その分だけ損です。同じ石数でもっと広く占められたのに、狭く使ったことになるからです。
初級・中級では基本の幅を守るほうがよいでしょう。広くヒラいて切られ、追われる損のほうが、狭くヒラいて数目少なく稼ぐ損よりずっと大きいのです。
根拠という考え方
ヒラキが大切な本当の理由は、地ではなく根拠です。根拠とは、その石が自力で二眼を作れる空間のことです。
根拠のある石は、攻められてもその場で生きてしまえば済みます。根拠のない石は中央へ逃げなければならず、逃げている間に相手は自然と周りを固めます。追われる側は地を作れず、追う側には地ができます。初級・中級の対局で形勢が傾く、いちばんよくある経路です。
ですから相手を攻めるときも、取ろうと襲いかかるより根拠を奪う手が有効です。取れなくても、追うだけで十分に得になります。
ワリウチ — 広い辺を分ける方法
相手が片方の辺を広く占めようとするとき、その辺の真ん中に打ち込む手をワリウチと言います。
原理は単純です。真ん中に打てば、相手がどちら側から攻めてきても反対側にヒラいて安定できます。相手が左から迫ってきたら右へ、右から迫ってきたら左へヒラけばよいのです。両側にヒラく場所が残っている位置がワリウチのコツです。
逆に自分が辺を占めたいなら、相手がワリウチできるほどの幅が残らないように、あらかじめ狭めておく必要があります。
勢力と実利 — どちらが良いのか
序盤の折衝はたいてい、一方が実利を取り、もう一方が勢力を取る形で終わります。どちらが有利かという質問はよくありますが、答えは「その時々で違う」です。
実利
いま目に見えている地です。確実で計算しやすい。そのかわり、それ以上は増えません。
勢力
外側に向いた厚い壁です。それ自体では一目にもなりません。初心者がいちばん誤解しているところです。勢力は地ではなく、「これから地を作ったり相手を攻めたりできる潜在力」です。
勢力が値打ちを発揮するには、活用しなければなりません。使い方は二つです。
- 攻めに使う — 相手の弱い石を自分の勢力の方へ追い込みます。いちばん効率の良い使い方です。
- 地として固める — 勢力の前の広い場所を占めて、領域にします。
勢力を活かせなければ、ただの損です。厚い壁を築いておきながらその前を相手に明け渡せば、実利を与えた見返りに何も得られなかったことになります。勢力の前が空いているあいだは、そこがいちばんの急場です。
もうひとつよくある失敗が、勢力の近くで地を作ろうとすることです。「厚みを地にするな」という格言があります。厚い壁のすぐ前に地を作ると、石が重なって効率が落ちます。勢力は遠くまで影響を及ぼすようにしておき、その間の広い空間を活用するほうがよいのです。
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相手について回る
相手が打った場所の隣に応じ続けることです。毎回受けていると、盤全体ではいつも一手ずつ遅れを取ります。相手の手が受けなくてもよい手なら、手を抜いて大場に向かうべきです。
一か所に石を集めすぎる
すでに安定した場所にさらに石を足し続ける癖です。石は丈夫になりますが、効率が落ちます。安全な石の隣にもう一手打つより、空いている辺に置く一手のほうがたいていずっと大きいのです。
序盤から無理に取りにいく
序盤はまだ互いに弱い石が多いので、無理な攻めは反撃となって返ってきやすいのです。取ろうとせず、攻めながら利益を得るほうが安全です。このテーマは初心者がやりがちな8つの失敗でさらに詳しく扱っています。
まとめ — 序盤の判断の順序
- 自分の石に危ないものはないか。あればまずそれから — 急場です。
- 相手の石に弱いものはないか。あれば攻める場所を探します。取るのではなく、追うのが目的です。
- どちらもなければ、いちばん広い場所へ。両側が開いた辺が優先です。
- ヒラくときは幅を守る。石ひとつなら二間、二つなら三間。
この順序を守るだけでも、序盤で大きく後れを取ることはほとんどありません。布石は感覚の領域なので一気には伸びませんが、判断の順序を持っているのと、毎回思いつきで打つのとでは、結果が大きく違ってきます。